弁護士が教えます!婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与するときの注意点
婚姻期間が長い夫婦の間で、配偶者の老後のために、居住用不動産(自宅)の名義を配偶者に変えておきたいが注意点はあるか、といったご相談をお受けすることがあります。
不動産の名義を変更する場合、登記原因は、夫婦間でも「贈与」になります。
夫婦間で「贈与」をする場合には
- 贈与税がどうなるか
- 他の遺産の相続時に影響がないか
をあらかじめ検討しておく必要があります。
贈与税のルールは「相続税法」という法律に規定されています。
相続税法21条の6では、「贈与税の配偶者控除」という制度が設けられています。
〖参考〗法令検索はこちら
この制度は、婚姻期間が20年以上である配偶者から
- 居住用不動産を取得した場合
- 居住用不動産を購入するための金銭を取得した場合
上記の場合に、その年分の贈与税については、課税価格から2000万円が控除されるというものです。
〖参考〗相続税法21条の6第1項(国税庁HP:「第21条の6《贈与税の配偶者控除》関係」)
- この贈与により取得した居住用不動産の価額に相当する金額
- この贈与により取得した金銭(うち居住用不動産の取得に充てられた部分)の金額
上記の合計額が2000万円に満たない場合には、その合計額が控除されます。
つまり、婚姻期間が20年を経過した後に、配偶者に不動産を贈与すれば、贈与税の納付額を抑えることができるということです。
贈与税の配偶者控除を受けるためには
「贈与税の配偶者控除」を受けるためには、贈与税の申告書を提出する必要があります。
〖参考〗相続税法21条の6の第2項(国税庁パンフレット:「財産をもらったとき」)
国税庁のホームページに「令和2年分贈与税の申告のしかた」が掲載されています。
申告書作成メニューにアクセスして、贈与により取得した財産などを入力していくと、税額が自動で計算されます。
相続時の遺産分割に影響があるか
居住用不動産以外にも財産がある場合、居住用不動産を生前贈与した後、いざ相続が発生したときに残りの遺産がどのように相続人へ配分されるかを検討しておく必要があります。
例えば、婚姻期間が20年以上経過した配偶者に、評価額2000万円相当の居住用不動産を生前贈与した後、預金が2000万円残っていたとします。
次の例の場合は、どのように配分されるのでしょうか。
例)
- 法定相続人:配偶者、子=合計2人(法定相続分は1/2ずつ)
- 相続財産:2000万円の預金(残りの遺産)
この配分については、生前贈与が「令和元年7月1日以降」にされたものか、「令和元年7月1日より前」にされたものかによって、扱いが異なります。
生前贈与が令和元年7月1日より前
令和元年7月1日より前に、居住用不動産が生前贈与されていた場合、民法の原則としては、「生前贈与がなかった」と仮定した場合の配分となるように調整して、残りの遺産を分けることになります。
〖参考〗民法903条1項(特別受益者の相続分)
例)
- 法定相続人:配偶者、子=合計2人(法定相続分は1/2ずつ)
- 相続財産:2000万円の預金(残りの遺産)
- 生前贈与:2000万円相当の居住用不動産
上記の例でいえば、相続財産と生前贈与された財産の総財産は4000万円です。
配偶者は、既に2000万円相当の財産を受け取っているので、原則として、預金2000万円は全て子に相続されることになります。これが、特別受益という考え方です。
〖参考〗特別受益に関する記事はこちら。
例外:遺言書がある場合
もし、居住用不動産の生前贈与をしたときに、「相続発生時には残りの遺産を半分ずつ分ける」といった遺言書などが残されていれば、配偶者が預金を受け取れる場合もあります。
しかし、そのような遺志を証明する書類がなく、配偶者と子が揉めると、預金2000万円は子が相続することとなってしまいます。
もし、令和元年7月1日より前に居住用不動産の生前贈与をされている場合で、贈与した方がご健在であれば、今からでも遅くありませんので、贈与した方が、遺言書などで相続財産の配分について明確にしておきましょう。
【Point】
- 居住用不動産の生前贈与を含めて残りの遺産を分けるのか
- 生前贈与は含めずに残りの遺産を分けるのか
生前贈与が令和元年7月1日以降
令和元年7月1日以降に、居住用不動産が生前贈与されていた場合、原則として、居住用不動産の生前贈与を考慮せず、単純に残された遺産を配分します。
つまり、配偶者と子は預金2000万円を半分ずつ(1000万円ずつ)受け取るということです。
〖参考〗民法903条4項(持ち戻し免除の推定)
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
婚姻期間が20年以上経過した夫婦間で居住用不動産を生前贈与した場合には、原則として、「生前贈与を考慮せずに遺産を配分するとの意思表示があったもの」と推定する、との規定が民法改正により新設されました(903条に第4項が追加されました)。
ただし、事実婚の場合は適用外なので要注意です。
この民法改正は、遺言書がない場合でも、長年連れ添った配偶者に有利な相続がされるように生前贈与の意味を解釈しようという考えによるものです。
ただ、揉め事をできるだけ少なくするには、遺言書で細かく取り決めておくことをお勧めします。
遺言書で「残りの遺産も全て配偶者に遺贈する」と取り決めることも可能ですが、遺留分の制約があるので、遺留分侵害額請求権を行使されたら、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うことになります。
〖参考〗裁判所HP:「遺留分侵害額請求の概要」
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